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インジェクションチューニングの難しさ  その1

皆様に大変ご好評いただいているライトサイクルのインジェクションチューニング
ですが、実際のインジェクションチューニングの方法や、注意すべき点など
あくまでも私の主観ですが、感じたことを書いていきたいと思います。

さて、インジェクションのチューニングには様々な商品がありますが、今回は
正確なセッティングを出す難易度が最も高いと思われる、純正コンピューター書き換え方式のチューナー、マスターチューンを例にとって、説明してきたいと思います。

   

まず、マスターチューン(スクリーミン・スーパーチューナーなども基本的に同じ)
は、ご存知のように
純正のコンピューターのデーターを変更していくタイプの商品です。

このタイプの商品のセッティングには大きく分けて4段階の方法があります。

難易度の低いものから順にあげますと(③と④は同程度の難易度です。)

①メーカーが提供するベースデーターをそのまま使用する方法。
 または、ベースデーターを予測に基づいて多少改良して使用する方法。
 (マフラー、エアクリーナー、エンジンなどの仕様が最も近いものを入れます。)
 *シャシーダイナモ設備でのセッティングは不要。

②V-TUNE(スクリーミンスーパーチューナーではsmart-tune)
 という酸素センサーでの制御を利用し、酸素センサーの学習機能・制御範囲内
 でのセッティングを中心にした方法。
(いわゆるクローズドループ制御中心のセッティングで、オートチューンと
 呼ばれるものです。)
 *シャシーダイナモ設備が基本的に必要ですが、実走行の繰り返しでも
  不可能ではない。


③設定したい空燃比(ガソリンと空気の混合比)を、エンジン回転数、
 スロットルの開度やマニホールドの負圧などの状況に応じて細かく設定し、
 実際にその混合比になるように、エンジンの吸入空気量数値(VE値)を
 人間が測定・調整しながらセッティングする方法。

 同時に②のV-TUNEによる酸素センサー制御を一部利用する方法。
(オープンループを中心としながら、クローズドループも少し併用。)
*シャシーダイナモ設備の使用が必要不可欠。


④設定したい空燃比を、全域にわたって人間が調整し、酸素センサー制御を
 全く使用しない方法。(完全なオープンループ)
*シャシーダイナモ設備の使用が必要不可欠。


ちなみに、当店では①、②の方法でチューニングすることはありません。
酸素センサーの付いているモデルは③、ないモデルは④の方法をとります。

では、なぜ当店では①、②の方法をとらないのか。

簡単に言いますと、正確で安全なセッティングが出せないと考えているからです。

①ベースデーターを流用する方法がなぜダメか。

まず、①のメーカーが提供するベースデーターをそのまま流用する方法ですが、
下のグラフを見ていただけるとダメな理由は一目瞭然です。
ちなみに、測定車両は2009年FLHTCU・ウルトラ、
マフラーがカーカースリップオン、エアクリーナーは純正です。

青い線が、新車時に入っている純正のコンピュータデーターをいじらず
ただ、マフラーを交換した場合のトルクと馬力の測定値になります。

赤い線が、標準的スリップオンマフラーを装着したバイク用に最適として、
メーカーが提供するベースデーターに書き換えた場合のものです。

見ていただいてわかるように、両者に変化が見られません。
念のため、他のベースデータも試してみましたがどれもいい結果はえられません
でした。
実際に道路も走ってみましたが、体感できるような改善もありませんでした。

つまり、ベースデータを使用しただけでは、チューニングの効果が
現れていないという残念な状態になっています。
サブコンなどをダイヤル設定しただけの場合もこんな感じになります。
確かにガソリン噴射量は少し多くなっているのですが、馬力・トルクアップの
結果が出てこないという結果になっています。

勿論、この測定値がバイク性能の全てを表しているわけではありませんが、
かなり寂しいチューニング結果であることは間違いありません。


それでは、ベースデーターの燃料数値をもう少し濃いもの変更してみると
いうのはどうでしょうか?

たいていのインエジェクションチューナーにはメインフューエルテーブル
という、空燃比設定値が入っているグラフがあり、その数値を手入力で
間単に変更することができます。そこの数値を予測と経験で変更してしまう
方法がとれればいいのですが、いきなりこれはやってはいけません。
この数値を変更する場合は後述しますVE値を正しく設定する必要がまずあります。

なぜなら、ただ単に変更入力した空燃比数値には実際のエンジンは
なってはくれず、とんちんかんな空燃比になってしまう恐れがあるためです。

偉そうにいっていますが、実は私もその昔、出始めたばかりのツインテックで、
はじめてインジェクションチューニングをテストしたときには、
このメインフューエルテーブルのみを触って空燃比調整を試みたことがあります。
ところが、実際のエンジンの空燃比を測定してみると、
自分が入力した数値と全く一致しないことがわかりました!大ショックです。

酸素センサーで制御しているのだから入力した数値に勝手にコンピュータが
一致させてくれるものとばかりに思っていたんですね。
ところがそうではなかった。
ALPHA N テーブルと呼ばれるツインテックのVE値設定テーブルの重要性に
最初は気づきませんでした。

ツインテックではこのテーブルを空燃比測定の結果から正確に数値変更
してあげることで、メインフューエルテーブルに入力した空燃比を実現できることに
なります。(マスターチューンやスーパーチューナーでも基本理論は勿論同じです。)



メインフューエルテーブルの例です。これを予測でイジるのは厳禁!

ツインテックの話はさておき、
では、なぜこのメインヒューエルテーブルに自分のターゲットする空燃比をいきなり
入れても実際の空燃比がそのとおりにならないのでしょうか?

それは、そもそもエンジンに入ってくる空気の量(VE値)のコンピューター内の
設定値が実際にエンジンに入ってくる空気量と一致していないからです。

インジェクションチューニングにおいて最優先されるデーターがこのVE数値グラフ
です。
コンピューターはこのエンジンに充填される空気量数値(VE値)をもとにして、
メインフューエルテーブルの空燃比になるように計算を行い、
燃料噴射の量(噴射時間)を決定しています。

ですので、このVE値をまず最初に正しくしない限り、
間違った噴射量計算が行われることになります。


VEのグラフ。前後シリンダーでそれぞれあり、全く同じ車種で同じマフラーを
つけたとしても、1台1台で数値は異なります。

VE値も予測して入力できればいいのですが、
様々なセンサーを使っても予測が難しい前後シリンダーの空気の流れを
勘で予測するのは至難の技だと思います。

VE値を正しく計測するには、やはりシャシダイナモの使用が不可欠になります。
鬼の実走行でも不可能ではありませんが、私は二度としたくはありません・・・。

(VE値を正しく校正していく具体的な方法は次回以降で述べたいと思います。)


ちなみにこのVE数値の設定グラフにはエンジン回転数とアクセル開度を軸にしているものと、エンジン回転数とマニホールドの負圧を軸にしているもの
(アルファNテーブル)があり、数値測定・設定のテクニックが異なります。

ちなみに、
特に2008年式以降のツーリングモデルではこの傾向がよりはっきりします。
その他の車種や、2007年式までのツーリングモデルにくらべて、
セッティングがよりシビアになるためです。



ベースデーターを、マフラーなどのバイク仕様から予測でイジった場合の典型例。
青い線が実際の空燃比曲線ですが、ガソリンが濃すぎたり、薄すぎたり
かなり乱れています。VEグラフが正しくないとこのような状態になります。

というわけで、ここまでで、かなり長くなってしまいました。
理屈っぽい内容で疲れましたね。
では続きは次回以降で!

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2009年12月09日 19:06に投稿されたエントリーのページです。

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