前回につづき、マスターチューンでのインジェクションチューニングに関する
解説です。
前回のブログでマスターチューンには4通りのチューニング方法があることと、
一番簡単な方法である、ベースデーターをそのまま、または、
予測でいじったベースデーターを使用することがダメな理由をご説明しました。
今回は、2番目に簡単な方法である、
②V-TUNE
という酸素センサーでの制御・測定を利用し、コンピューターの自己学習機能
によるセッティング方法がダメな理由を述べたいと思います。
(いわゆるクローズドループ制御中心のセッティングで、オートチューンと
呼ばれ方法です。)
*シャシーダイナモ設備が基本的に必要ですが、実走行の繰り返しでも
不可能ではない。
そもそもV-TUNEとは何ぞやと申しますと、実際にバイクを走行させて
酸素センサーに誤差を測定させ・VE値を校正させるという、いわゆる
オートチューン調整(自己学習機能による調整)と考えてもらえれば
いいかと思います。
ちなみに、
学習機能を働かせれば、バイクを乗り込んでいるうちに自動的に
セッティングが合ってくると思われがちなのですが、
残念ながらそのようにはなりません。
結構誤解されている点かもしれません。
チューニングデーターに反映させるためには、
定期的にバイクのコンピューターをパソコンに接続して、ソフト上で
データーの上書き更新を行う必要があります。
これを行わないと、いつまでたっても最初に入れたデーターのままです。
しかし、たとえこの学習機能を利用したオートチューンを正しく行ったとしても
決定的な問題が2点あるため、当店ではこの方法は行いません。。
具体的には、
①自己学習中にエンジンに負担がかかる。
②チューニング精度があまり正確でない。
まず①ですが、なぜエンジンに負担がかかるのか。
そもそも酸素センサーには大きく分けてナローバンドとワイドバンドという
2種類のものがありますが、ハーレーのコンピューターはナローバンドの
酸素センサーで働くシステムを採用しています。
上がハーレー純正ナローバンドO2(酸素)センサー
下が、ボッシュ製ワイドバンドO2(酸素)センサー
このナローバンドセンサーはその名前のとおり、狭い範囲の空燃比しか測定
できないもので、理論空燃比と呼ばれる14.6 : 1 前後の比率しか測定できません。
当然、ナローバンド酸素センサーからの情報をもとにチューニングする
V-TUNE(学習機能によるチューニング)では14.2~14.7前後あたりの
空燃比の範囲でしかVE調整がうまく働きません。
エンジンに負担がかからない領域では、この空燃比でも問題がありませんが、
エンジンの回転を上げたときなどは、これではガソリンが薄すぎることになります。
様々なスロットル開度、エンジン回転数全域で自己学習させるためには
この薄いガソリン設定の状態で、効率のよいシャシダイナモ上でも最低3時間は
バイクをガンガン走らせる必要があります。一定のスロットル開度を保ちにくい
路上走行となると、きっちり学習させるためには途方もない距離数の実走行が必要
となります。
つまり、オーバーヒートを起こしやすい薄い空燃比で
長時間バイクを走行させて自己学習させる必要があるため、
エンジンに負担をかけてしまうことになるのです。
パワーの面でも、オーバーヒート防止の点でも
多くのエンジニアが推奨している空燃比はハーレーの場合、
具体的には13.0~13.5 前後というもっと濃い目の数値ですが、
純正のナローバンドセンサーではこの数値を拾うことができないため、
オートチューンできません。
(ただし、暖気運転時や、高速道路を流している時などは、13.5ではない
空燃比が理想となります。)
ちなみに、ハーレーがナローバンド酸素センサーを使い続ける理由には
諸説ありますが、ワイドバンドセンサーが非常に高価なこと、
耐久性が低いことなどがあげられるようです。
(オーバーヒートを緩和するため、ハーレー社はヒートマネージメントシステム
という機構を採用していますが、エンジンが明らかにおかしな動きをはじめるため
お客さんには評判が悪いようです。)
ワイドバンド酸素センサーの場合10.0~20.0という
ナローバンドにくらべて遥かに広範囲の空燃比を測定することができます。
サンダーマックスなどはワイドバンドセンサーを採用していますので
この点では、純正より優れていると言えます。
しかし、故障のないマスターチューンと異なり、サンダーマックスは
商品自体の故障率が結構高いのが難点です。
(注:あくまでも当店での取付実績からで、私の個人的意見です。)
②自己学習チューニング精度の不正確さについて。
ハーレーのインジェクションシステムは酸素センサーなどからの情報が
コンピューターにフィードバックされるクローズドループという状態と、
酸素センサーなどの補正の入らないオープンループと呼ばれる固定データー
によるシステムを併用しています。
当然、自己学習機能はクローズドループの状態で働きます。
しかし、正しく自己学習をさせた後のバイクのチューニング状態を
当店で何度も確認したところ、
ターゲットとする空燃比との間のズレが実際には解消できていない
部分がけっこうあることがわかりました。
このあたりの理由につきましては、今後のブログで説明したいと思いますが、
要は自己学習機能そのものの精度に限界があるということです。
以上のような理由で、当店ではV-TUNE(自己学習機能)だけに頼ったチューニングは
行いません。
(ただし、全てを13.5などに合わせるわけではなく、アクセル全開時はさら
に濃く、逆にエンジンが熱を持ちにくく負担の少ないアクセル開度・回転域に限っては
燃費向上の観点から14.2~14.6前後の酸素センサーが働く設定を行います。)
それでは、次回からは実際に当店で行っているマスターチューンの
最良なインジェクションチューニング方法をご紹介していきます。