ハーレー純正インジェクションチューナー・スーパーチューナーについての
解説の最終回です。
今回は、スーパーチューナーはもちろん、マスターチューンなど
純正コンピューターのデーターを書換えしていくタイプのインジェクション
チューニング方法をおこなう際の重要なポイントを解説してみます。
また、当店で行っているセッティングについても少しご説明していきたいと思います。
以前のブログでマスターチューンのセッティングについて解説した内容と
重複する部分も多いので、すでにご存知の方はとばしてください。
①VE(充填効率)の重要性。
ハーレーのインジェクションチューニングを行う際に最も重要となる要素が
VEと呼ばれる、空気の充填効率です。とにかくこれが重要です。
エンジンが動く時、当たり前ですが空気がエンジン内に吸い込まれます。
吸い込まれる空気の量は、アクセルの開き具合やエンジンの回転数などによって
刻々と変化していきます。
また、その変化の仕方は排気量やカムシャフトなどエンジンの仕様によっては
もちろん、マフラーやエアクリーナーによっても全く異なったものになります。
もっと細かく言えば、たとえ仕様が全く同じバイクでも同じVE変化を示す
ものは1台もありません。
お客様1台、1台それぞれのバイクがそれぞれのVE変化特性を持っています。
以前のブログでも説明しましたとおり、マスターチューンでもスーパーチューナー
でも、ベースデーターの中に入っているVE値が実際のバイクのものと一致することは
ありません。
当然メーカーでもその道のプロがシャシダイナモはじめ様々な測定器を使用して
マップを製作しているわけですが、応用性が極めて低い要素のため、仕方のない
ことだと思います。あくまでもベースとなるデーターでしかないということです。
さて、話をVEに戻しますと、
このVE値がなぜそれほどまでに重要かといいますと、
燃料噴射制御において、まず一番に優先されるのがこのVE値であり、
コンピューターはこのVE値にもとづいてガソリンの噴射量(噴射時間)を
決定しているからです。
VE値のグラフ。シリンダー容積に対してのパーセントで表されます。
ちなみにハーレーにはエンジンに入ってくる空気量を測定するエアフローメーター
というセンサーがついていません。
そのため、エンジンがこの回転数でアクセル開度がこの位の時には
エンジンに入ってくる空気はおそらくこれ位になるだろうという予測のVE値が
コンピュータにはあらかじめインプットされており、その数値に基づいて
燃料噴射の量を決定しています。
つまり、この空気量の予測数値(VE値)が実際と異なっていては、
全然違う量のガソリンが噴射されてしまうことになります。
正しいVE値を設定するためには、くどいようですが、
例えプロであっても、シャシーダイナモや高精度空燃比測定器の使用が
必要不可欠です。
(シャシーダイナモは馬力やトルクの単なる測定器と見られがちですが
最も本領を発揮するのは調整器として使用した時です。)
(メインフューエルテーブルとVEテーブルの関係)
純正コンピューターをはじめフルコンと呼ばれるものには、
メインフューエルテーブルと呼ばれるグラフが必ずあります。
これは、空気とガソリンの混合比をどのように変化させていくかを
プログラムしたものですが、あくまでもVEテーブルの数値に基づいて計算されます。
VEテーブルよりも一般の方でもわかりやすいテーブルのため、ついついこちらを
いじってみたくなるものです。
スーパーチューナーのメインフューエルテーブルの例。こちらは3次元で表したもの。
しかし気をつけなければいけないことは、このメインフューエルテーブルの数字だけを
いじれば混合比を決定できると思ってしまうことです。
VEテーブルが正しく修正されていないければ、実際の混合比はメインフューエル
テーブルの数字とは全く異なる滅茶苦茶なものになってしまいます。
メインフューエルテーブルの混合比数値は、
VE値が正しいことが前提となる数字であることを理解しなければなりません、
(酸素センサー(02センサー)制御に頼れない現実。)
ハーレーには酸素センサーをはじめ、色々なセンサーがついており
それなり補正が入るようになっていますが、補正できる混合比の範囲が
14.6という非常にガソリンの薄い部分に限定されています。
14.6という数値はご存じのように理想空燃比と呼ばれるものですが、
空冷大排気量のハーレーエンジンの混合比としては、一般的に薄いと考えられています。
この14.6という数値を中心にセッティングを行うと、オーバーヒートが
非常に起こりやすいエンジンになってしまい、アクセル全開時などは
最悪の場合焼き付きを起こしてしまいます。
そのため、インジェクションのチューニングを行う際には、通常、
純正酸素センサーの制御外である12.6くらいから13.5あたりのやや濃い目の
混合比設定を行う範囲をかなり広くとることになりますが、この際にも
VE値が正しく修正されていることが絶対条件となります。
ベースマップの例。14.6で酸素センサーが働くクローズドループの範囲が
広くとられています(赤い範囲)。特に日本ではオーバーヒートを起こしやすい
薄い設定のため当店でこのようなマップを使うことはありません。
(当店でのセッテイング方法)
ライトサイクルで実際に行っているスーパーチューナーのセッティング方法ですが
以前のブログ、”マスターチューンでのセッティングの難しさ(その3)と
(最終回)”で書いていた内容と基本的に同じことに気づきました。
よかったらそちらをご参照ください。どうもすみません。
(その他のチューニングポイント)
当店で行うスーパーチューナーやマスターチューンのセッティングで
気をつけているポイントを補足で述べます。
・安定したアイドリング。
スーパーチューナーやマスターチューンを使用した場合
アイドリングが上下降してばらついてしまう症状が出る場合があります。
特に800回転までアイドリングを下げた場合に顕著にあらわれる現象です。
そのため、当店では安定したアイドリングを出すための調整に気を配っています。
・アクセル反応(スロットルレスポンス)の改善。
スーパーチューナーの場合、
アクセルを急に大きく開いたとき(空ぶかし時)
エンジンが鋭く吹けあがらない症状が出やすくなります。
空ぶかしという行為自体はおすすめしませんが、仮に空ぶかしした場合でも
当店ではアクセル反応を損なわないセッティングを行うようにしています。
・燃費低下を最小限にする。
マフラーやエアクリーナーを交換した場合、当然純正データーよりも
多くのガソリンを噴射することが必要になります。
また、オーバーヒートの問題がありますので、むやみな薄めの設定は
エンジンを痛める恐れがあり危険です。
ただし、燃料噴射の精度を極めて正確に出すことで
無駄に噴射されるガソリンをなくし、必要以上の燃費悪化が
出ないよう気をつけています。
また、エンジンに負担が少なく・オーバーヒートしにくい回転数や
アクセル開度では無駄に濃い設定は必要ないため、適度な噴射量で
燃費向上を図るようにもしています。
以上、長々となりましたがこれでおしまいです。
当店では、様々なメーカーのフルコンやサブコンなどの
インジェクションチューニングに関する商品を多数取り扱っておりますが、
それぞれに特長があるため、特別ひいきにしているブランドや商品はありません。
しかし、実経験として間違いなく言えることは、
マスターチューンと同じく、スーパーチューナーもハーレー純正コンピューターを
そのまま使用するチューニング商品のため、正しいセッティングさえ行えば
故障やトラブルと無縁の、非常に性能に優れたものだということです。
特に信頼性を重視される方には自信をもっておすすめできます。
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